森林の下層土壌も量的に重要な無機態窒素供給源となりうる(A01班)
研究分担者:小嵐 淳 日本原子力研究開発機構/研究主席(同位体地球化学)
窒素は多くの森林で一次生産を制限する要因です。植物はリターなどの高分子量の有機態窒素をそのまま利用することができず、微生物による分解・無機化の過程を経た低分子量の有機態窒素および無機態窒素を利用しています。窒素などの養水分の吸収を行う植物根は大半が表層土壌に分布することから、従来の窒素循環研究は主に表層土壌を対象としてなされてきました。一方で、植物は下層土壌にも根を伸ばし、下層土壌からも窒素を吸収することが明らかとなっています。
本研究では下層土壌における窒素無機化速度の測定とその速度に影響する要因の解明を目的とし、北海道、埼玉、愛知、広島に位置する4つの森林において、表層土壌(0-10 cm深および10-25cm深)および下層土壌(30-45cm深および45-60cm深)を対象として調査を行いました。単位重量当たりの窒素無機化速度は表層で高く、深度とともに低下する傾向がみられました。また、表層土壌における窒素無機化速度の水平方向の違いと同様に、深度方向での窒素無機化速度の違いには土壌の微生物バイオマスと炭素量が重要な要因であることが示唆されました。このことから、下層土壌においても表層と同様のメカニズムで窒素無機化が生じていることが示唆されました。
一方で、単位体積当たりで見た場合、下層土壌の窒素無機化速度は表層土壌と同程度であることが新たに明らかとなりました。これらのことから、下層土壌においても表層と同様のメカニズムで窒素循環速度は決定され、また下層土壌も植物が利用可能な窒素供給源として量的に重要であることが示唆されました。
キーワード:窒素無機化、下層土壌、土壌微生物バイオマス、土壌炭素量
論文掲載日:2024年6月17日 (オンライン版発行日)