挨拶

地球環境は、私が研究者を志した1990年代半ばと比べても、明らかに変化していることが実感されます。大気中の二酸化炭素濃度は400ppmvを優に超え、夏の猛暑や暖冬はほとんど毎年の出来事となり、ゲリラ豪雨などの極端気象も頻発するようになりました。2021年ノーベル物理学賞を受賞された真鍋淑郎博士らの研究に始まる気候モデルによるシミュレーションは、抜本的な対策を行わない限り、地球環境は近い将来さらに悪化することを示しています。

本領域は、生物圏の機能を活用することで、地球環境を激変から守る対策を提示することを目的としています。新学術領域「植物高CO2応答」(2009~2013:領域代表・寺島一郎)をベースに、気候変動や人間活動などの現実的な要因を加え、気候変動を緩和するための科学的知見を提供します。生物圏に関する理解を深めるため、ゲノム科学から地球科学まで多様な参画者による共同研究を行い、統合生物圏科学の確立を目指します。

本領域名にある「デジタルバイオスフェア(Digital Biosphere)」は、統合生物圏科学を象徴し具体化するモデルを指します。今風な表現では、Society 5.0が標榜するサイバー空間の生物圏バージョン、あるいは生物圏のデジタルツインと言い換えることができるかもしれません。現実世界での研究(実験や観測)を行うことはもちろん、最近のデータ科学的手法も活用して新しい生物圏のモデルを構築します。

領域代表 
伊藤 昭彦 (国立環境研究所)