研究レポート

【研究紹介】
スペシャリスト外来植食者が現在進行形で示す、寄主幅の新規拡大

  • A分野
  • A04班
2025年01月17日
内海 俊介  北海道大学/教授(進化群集生態学)

 外来生物の侵入が前例のない速さで進行している。外来生物の侵入は生物多様性の棄損と生態系機能の低下を引き起こす主要因の一つである。グローバルに生じるさまざまな侵入の結果、侵入地では、異なる地理的起源を持つ複数の外来種が新たに遭遇するという事態が生じる。その一方、外来は、侵入地という新しい環境において迅速な適応進化を示すことが近年よく知られるようになってきている。したがって、もし、地球上の異なる地理的起源をもつ外来生物が侵入地で遭遇するならば、進化的応答がおこり、新規な生物間相互作用の形成を構築する可能性がある。しかし、このような異なる地理的起源をもつ外来種同士が形成する新規な生物間相互作用の構築について、ほとんど明らかになってきていない。

 私たちは、北米原産の外来種であるセイタカアワダチソウ(Solidago altissima)を寄主とする、Solidago属植物のスペシャリスト・アブラムシの寄主利用に着目した。セイタカアワダチソウは侵略的外来種としてよく知られ、日本各地で繁茂している。そして、セイタカアワダチソウの定着は、同じく北米原産で、Solidago属植物のスペシャリストとして知られるアブラムシのUroleucon nigrotuberculatum(セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ)の侵入を助長してきた。本研究は、このスペシャリスト・アブラムシが、侵入地である日本において、多様な別属の外来植物種の利用をし始めているのではないか、という仮説を立てた。この仮説の検証のために、分子系統解析・形態解析・接種実験を行った。

 このアブラムシについては、原産地において、もっぱらSolidago属のみを利用するとされている。また、日本国内においても、侵入初期に他の植物上でまれに見られることがあったという観察記録はあるものの、その後はセイタカアワダチソウにおいてのみコロニーが形成されることが知られている。しかし、系統解析の結果、セイタカアワダチソウに加えて、セイヨウタンポポ、オニノゲシ、ノボロギクといった多様な外来植物種から収集したアブラムシにおいて遺伝的差異は見られず、すべてが国内セイタカアワダチソウから得られたセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシと同一のクラスターに属することが示された。また、形態学的特徴もこのアブラムシ種の特徴と完全に一致した。そして、接種実験からも、セイタカアワダチソウから採取したアブラムシが、同属のオオアワダチソウだけでなく、セイヨウタンポポやノボロギクにおいても生存し、しかも繁殖できることが明らかになった(Ilyas & Utsumi, in press)。

 本研究は、地球規模で進行する生物侵入は、地理的起源の異なる外来種同士、すなわち進化的歴史を共有しない生物種同士の新たな遭遇をもたらし、その結果として、原産地ではみられることのなかった新規な生活史(ここでは、原産地では観察されていないような、スペシャリスト昆虫の寄主幅の拡大)を現在進行形で発達させるようになることを示している。言い換えれば、侵略的な外来植物によって形成される新しい植物群集が、外来の植食性昆虫の個体群を、群集レベルでサポートしてしまうということでもある。

ノボロギクにてコロニーを形成するセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ

 

引用文献:
Ilyas, A., Utsumi, S. (in press) Utilization of a wide range of exotic plant species by an exotic, Solidago-specialist aphid, Uroleucon nigrotuberculatum. Annals of the Entomological Society of America

 

キーワード:生物侵入 外来種 迅速な進化 適応 生活史 寄主植物