令和4年度スタートの研究公募について
科研費・学術変革領域(A)の研究領域「デジタルバイオスフェア:地球環境を守るための統合生物圏科学」(代表:伊藤昭彦)が今年度から始まりました。本領域の目的は、生物圏機能に関わる多様な研究分野の知見を「統合生物圏科学」として再構築し、高精度・高分解能なモデルを開発することで、地球環境激変を回避するための生物圏機能強化による対策を提示することです。
本研究領域の研究をより一層推進するために、領域のメンバーと連携しつつ研究を行う研究グループを公募いたします。本領域では、ゲノムから個体・集団・群集・生態系レベルまで幅広いスケールにわたって生物圏機能に関わる研究の展開を目指しています。学術的に先進的な提案はもちろん、若手研究者からの応募、サイトの長期観測を支援する内容などもスコープに含まれます。 詳しくは下記からお知らせ・公募要領をご覧下さい。
令和4年度科学研究費助成事業‐科研費‐(学術変革領域研究(A)(公募研究))の公募について
お知らせ
2021/12/16 公募説明会(2021/12/15実施)は終了いたしました。2021.12.15公募説明会資料
2022/06/16 公募の審査結果が通知されました。
令和4(2022)年度科学研究費助成事業(学術変革領域研究(A))の審査結果の通知について
領域の概要
地球環境激変の防止は喫緊の課題であり、排出削減はじめ様々な対策を動員した脱炭素化が進められています。地球上に分する生物圏の機能、すなわち大気中二酸化炭素(CO2)の吸収固定やバイオマス供給などの機能を強化することで、地球環境保全への貢献が期待されますが、基盤となる生物的メカニズムの理解、現状把握、モデルの予測精度は未だ不十分です。
本研究領域の目的は、生物圏機能に関わる多様な研究分野の知見を「統合生物圏科学」として再構築し、高精度・高分解能なモデルを開発することで、地球環境激変を回避するための生物圏機能強化による対策を提示することです。従来研究において限界・障壁となってきた生物のミクロからマクロに跨がるスケールと視点の違いや、地球全体にわたる生物多様性と不均質性を克服するための基礎研究と多岐にわたる分析を行います。生物圏機能のメカニズムを深く掘り下げるA分野、観測により急激に変化する地球環境下での現状把握を行うB分野、新たな生物圏モデル「デジタルバイオスフェア」開発を行うC分野で構成されます。これらの分野間で有機的連携を進め、知見を統合化したモデルによるシミュレーションを行うことで、生物圏によるCO2吸収量、バイオマス供給量、必要な土地面積など気候変動緩和の検討に必要となる指標を定量的に評価します。
基本的な研究戦略
「統合生物圏科学」構築を目指して、ミクロからマクロまでのスケール階層を繋ぐことで新分野を開拓し、地球環境激変緩和・脱炭素化のための未解決問題(CO2固定、バイオマス供給、土地利用など)に回答を与えます。この基本戦略を促進・具体化し定量的な分析を行うため、生物圏モデル「デジタルバイオスフェア」の開発を共通目標とします。最終的なターゲットは地球全体であり、重要度の高いアジア・日本などの領域を重点化します。また陸域生態系を重視しつつも、ブルーカーボンで注目される海洋生態系もカバーします。
主軸となる3分野(A、B、C)を設定し、各分野は複数の計画研究と公募研究で構成されます。A分野は、CO2固定などの生物圏機能の変動環境下での最適化メカニズムを解明するため、個体群以下のミクロスケールでの研究を実施します。B分野は、野外生態系での観測やリモートセンシングによる研究を行います。それにより地球環境変化の影響と、構造(バイオマスなど)や形質の変化・応答を把握します。C分野は、知見を統合した生物圏モデル「デジタルバイオスフェア」を開発します。土地利用を考慮した計算により生物圏機能の向上効果を検討します。領域を通じて、データ科学の進展を取り入れたイノベーションを目指し、観測ネットワークを活用して可能な限り幅広い生態系をカバーします。A―B分野は研究サイトや分析手法を共有し、B―C分野はモデルの開発と検証によって共同研究を進めます。
本領域を構成する3分野はメカニズム解明、実態把握、モデル化と予測を担当し、高水準の研究を実施する上で不可欠です。各分野の計画研究の概要を以下に示します。
○ A分野:生物圏機能の最適化と変動環境への応答のメカニズムの解明に関する研究
[A01:生態系、A02:植物、A03:微生物]
生物圏の機能(特に大気からのCO2固定とバイオマス供給)に決定する要因や環境応答のメカニズム解明に関する研究を行います。ゲノム、細胞・器官、個体のスケールで生物機能がどのような過程を経て形成され、大気CO2濃度上昇、温度上昇、乾燥化といった環境変動にどのように応答するかを解明します。圃場・室内での実験に加え、野外サイトでの測定、さらに各種形質データベースを活用して大規模データセットを構築し、近年のデータ駆動型モデルを活用して広域・長期的な変動パターンをモデル化します。
[A04:公募研究]
生物圏によるCO2固定やバイオマス供給などの機能メカニズムの解明に関する内容を扱います。森林をはじめとする植物や土壌微生物の機能については計画研究(A01-03)で扱われており、本項の公募研究にはより多様なメカニズム、例えば動物などによる生態系機能への影響、沿岸域などブルーカーボン蓄積機能、短期から長期での環境変動に対する機能応答に関する提案などを期待します。また、様々な空間スケールでの生物多様性と生物圏機能の関係に迫る研究も望ましいです。
○ B分野:現在進行中の地球環境変動がもたらす生態系変化に関する研究
[B01:野外観測、B02:リモートセンシング]
国内およびアジア(ユーラシア)地域にサイトを設置して微気象学や近接リモートセンシングの手法によるガス交換や生態系構造に関する観測を実施し、生態系スケールの機能とその環境応答に関する研究を行います。さらに衛星リモートセンシングを適用して日本からアジア・全球スケールでの生物圏機能とその変化パターン抽出を行います。A分野から提示された機能的形質について操作実験を行い、生物圏機能の促進可能性を検討します。
[B03:公募研究]
観測による生物圏機能の広域的な現状把握に関する内容を扱います。計画研究(B01-02)は微気象学的方法によるフィールド観測と高精度リモートセンシングを実施し、本項の公募研究には広域をカバーするため多くのサイト観測の参加を期待します。既存サイトを整備し活用することで長期データを提供する課題や、領域全体で実施する重点サイトにおける集中観測(キャンペーン)や操作実験への参加を通じた統合的なデータ解析に貢献する課題を期待します。
○ C分野:生物圏機能を全球スケールでシミュレートするモデルの開発と応用に関する研究
[C01:生物圏機能の定量的把握、C02:気候システムとの相互作用解析]
生物圏の機能をグローバルスケールで再現するモデル「デジタルバイオスフェア」を開発します。超高分解能でマッピングを行うモデルと、低分解能で気候システムとの相互作用をシミュレートする地球システムモデルを使用します。高精度で光合成CO2固定やバイオマス生産を過去から将来にわたって定量的に評価し、地球環境の激変の緩和実施に貢献します。いずれのモデルもA分野のメカニズム解明に関する成果を活用して高精度化を図り、B分野の生態系観測データに基づいて精度検証を行います。
[C03:公募研究]
生物圏モデルの開発と緩和策に関する内容を扱います。計画研究(C01-02)では、高分解能モデル「デジタルバイオスフェア」の開発、地球システムモデルを用いた気候フィードバック分析を実施し、本項の公募研究にはそれらモデル研究に貢献する提案、A及びB分野との有機的連携を促進する提案を期待します。データ駆動型モデルの導入によるモデルの計算効率や精度の向上、社会経済要因を考慮した生物圏機能活用による緩和策検討、などの提案を期待します。
公募研究の予算規模と件数
研究項目A04、B03、C03の合計として、重要度の高いテーマや領域全体を通じた統合化に資する提案には年間800万円(3件程度)、発展性のある内容の提案には年間400万円(8件程度)、主に萌芽的研究の提案や長期観測のためのサイト整備には年間200万円(12件程度)を配分することを想定しています。萌芽的研究は、上記の記載内容を超えるような自由な発想を含む提案も対象とします。公募研究の目的の一つは若手研究者の育成であり、積極的な提案を期待します。また、女性研究者の提案も歓迎します。