研究論文が公開およびプレスリリースされました(B01班 小林准教授)
"雪解け時期が早まると東ユーラシアの寒冷地に生えているササの成長が増加する" 小林 真 北海道大学/准教授(生態系操作実験)
近年、世界中の寒冷地において積雪に関係した気候変動が顕在化しています。2022年に公開された最新のIPCCの報告書では、北海道などの高緯度地域では、将来的に夏よりも冬において気温の上昇幅が大きくなると予測されており、雪解け時期の早期化などが起こるとされています。
北海道など寒冷地の森林植物は、大気中の二酸化炭素の重要な吸収役として知られていますが、雪解け時期は森林植物の成長と深く関係しています。そのため、雪解け時期が早まることで、森林植物の成長は影響を受けると予測されます。しかし、これまでにはツンドラ植物や草本、樹木の苗木など背丈の小さな植物へ及ぼす影響について調べられた研究が多く、森林に生えている成木と林床植物について、その影響の違いを同時に調べた研究は見当たりません。そこで本研究では、北海道大学の研究林において、森林の雪解け時期を実験的に早める大規模な野外操作実験を行い、森林に生えている成木や林床植生の成長へ及ぼす影響を調べました。具体的に、どの様な大規模実験を行ったかというと、積雪期の後半に大きさ1mほどの大型ヒーターに専用のダクトを接続して森中に張り巡らせ、ダクトから温風をだすことで気温が森林全体の雪を、深さにして半分ほど溶かしました。
実験の結果、雪解け時期が約10日間早まった森林では、雪解け時期が通常であった森林に比べて、土壌中で無機化される窒素量が増えることが分かりました。一方、土壌中で増えた無機態窒素を養分として吸収し、成長を増加できていたのは林床植生であるクマイザサのみで、ダケカンバの成木へは有意な影響はありませんでした。
気候変動が森林の植物に及ぼす影響については、植物が活発に成長する夏に比べて、冬の気候変動については未解明な点が多いのが現状です。今回の研究成果では、”雪解け時期の早まり”という寒冷地で予測されている気候変動は、森林の植物へ等しく影響するのではなく、林床植生と成木でその影響の与え方が異なることを示しました。
こうした世界にも例を見ない大規模な操作実験ができるのは、70000ヘクタールという広さを誇り、実験に不可欠な重機などを巧みに操ることができるスタッフがいる北海道大学の研究林の強みです。特定の環境要因のみを野外で操作し、その生態系への影響を評価することで、予想されている気候変動が生態系へ及ぼす影響の因果関係に言及することができます。こうした野外操作実験による気候変動研究を積み重ねることで、東ユーラシア地域における気候変動が、生態系へ及ぼす影響メカニズムの解明へ貢献できると考えています。
大きさ1mほどの大型ヒーターを用いた大規模な野外実験の様子(左)
左半分が雪解け時期を早めた森林、右半分が通常の雪解け時期の森林の様子(右)