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2023年09月28日

光を使って地中の有機物と微生物活性を推定する新手法(B01班)

研究代表者: 中路 達郎 北海道大学/准教授(地域資源管理)

 森林土壌中の有機物組成とそれが微生物に分解されることによって生じるCO2の放出速度を非破壊的かつ迅速に推定する新手法を開発しました。森林の土壌には莫大な量の炭素が有機物の形で貯蔵されており、微生物はその一部を分解して大気中にCO2を放出しています。一般に、野外の土壌有機物組成の調査では、土壌の採取と室内分析が必要で、CO2放出速度の調査ではガス分析計が使用されてきましたが、現場の土壌環境を攪乱してしまう、調査地点数を増やしにくい、時間がかかるといった課題がありました。研究グループは、短波長赤外領域(波長1000~2500nm)の反射光が有機物や水分の情報を反映することに注目し、地中に挿した光ファイバーと小型分光器によって計測した分光反射率をもとに、深さあるいは樹種によって異なる土壌有機物の組成とそれらと関連した微生物呼吸速度が推定できることを示しました。今後、空間異質性の強い野外の土壌炭素動態のマッピングや多地点モニタリングなどへの応用を通してデジタルバイオスフェアへの貢献が期待されます(以上、北大・信大・九大・国環研プレスリリース 2023/8/4をもとに改訂)。

図1 研究で用いた分光放射計の一式(左)と林内における調査風景(右)

土壌中の分光反射を計測するために専用のプローブを製作し、野外で深さ別の迅速な分光反射率計測*1が可能な観測システムを構築した。

図2 推定されたCO2放出速度の手法間比較

縦軸の値は、今回開発した手法で得られた推定値、横軸はガス分析計を用いて計測した従来法の値を表す。図中のアルファベットは調査地点の直近に生えている樹種を示す。一つの点データは3箇所の平均値、十文字線は標準偏差を示す。原点を通る破線と太い直線は、それぞれ1:1を示す直線、ケヤマハンノキ(Ah)を除いたときの近似直線を示す。rRMSEは、実測値全体の平均値に対するRMSEの割合。なお、ケヤマハンノキは窒素固定菌と共生しており、周辺土壌は非常に栄養が多く、予想される微生物呼吸が高いため外れ値として扱った。今回開発した方法で得られた推定値(縦軸)は、やや高い値を示す傾向にあったが、従来のガス分析計を用いて計測した値(横軸)と正の相関関係があることが確認された。

(2023年6月21日 論文掲載)

 

キーワード: 森林土壌、鉛直分布、樹種間差、短波長赤外分光

引用文献:
Nakaji, T., Makita, N., Katayama, A., Oguma, H. (2023) Belowground spectroscopy ― Novel spectral approach for estimation of vertical and species-specific distributions of forest soil characteristics and heterotrophic respiration. Agricultural and Forest Meteorology, 339, 109563.
https://doi.org/10.1016/j.agrformet.2023.109563