ニュース

2023年10月02日

温暖な森林ほど炭素生産量が大きい理由を解明(B01班)

研究代表者: 甲山 哲生 東京大学/助教(群集生態学)

 森林の樹木は、陸上の生物炭素の生産と蓄積を担っており、地球上の炭素循環に中心的な役割を果たしています。とりわけ、熱帯多雨林は大きな森林の炭素生産量と高い樹木種の多様性を示します。
 これまでの研究は、さまざまな森林の間で、樹木種多様性と炭素生産量の相関を調べるに留まり、これらの間の機能的な結びつきは未解明でした。また、森林の生産量の地域間比較にも手法的な問題がありました。樹木の繰り返し測定データに基づいて森林の純一次生産量を推定する従来の手法では、センサスの間に枯死した樹木の成長が無視されていました。さらに、森林を構成する個々の樹木種のターンオーバー速度の不均一性も考慮されてきませんでした。
 このような推定手法上の問題を解消するために、著者らは樹木集団の生産量推定の新手法を提案しました。種多様性が高いマレーシアの熱帯多雨林にこの新手法を適用したところ、種レベルの相対的な(炭素量当たりの)炭素生産量が、炭素量の高い樹木種ほど減少することを見出しました。また、それぞれの樹木種について、その面積当たりの炭素量は、個体密度(単位面積当たりの本数)よりも種の最大樹高を反映することも示されました。こうした共存する樹木種間の機能分化に基づいて、森林を構成する低木種と高木種の炭素量の相対的な割合、すなわち「樹木群集構造」によって、森林生産量と種多様性そして気候との関連性が説明できるという仮説を立てました。一方で、別の可能性も考えられます。温暖な気候環境ほど、高い光合成速度や長い生育期間を反映して、おなじ炭素量を持つ樹木個体や樹木種でも生産量が高いことによって、森林全体の生産量が高くなっているのかもしれません。これらの可能性を検証すべく、本研究プロジェクトが立案・実施されました。
 本研究では、インドネシアやマレーシアの熱帯林から台湾や沖縄の亜熱帯林、そして鹿児島の暖温帯林から北海道の亜寒帯林に至る60の森林の継続調査データを解析しました(図1)。これには環境省モニタリングサイト1000の森林調査サイトも40箇所含まれます。これらの地域はモンスーン気候の影響により一年を通して 森林が成立するのに十分な降水量があります。そのため、森林間の樹木種の多様性や生産量の違いは年平均気温によってよく予測することができ、年平均気温が高くなるほど多様性や生産量が高くなっています。
 著者らが開発した新手法を用いて森林を構成するすべての樹木種(総計1,587種、2,604地域集団)の相対生産量を推定した結果、予測された通り、単位面積当たりの炭素量が大きい種ほど、相対生産量が小さい傾向が認められました。さらに、こうした種レベルの相対生産量と炭素量の反比例関係は、熱帯から亜寒帯に至る森林の間で驚くほど一致していました(図2)。

図2 樹木種レベルの相対生産量と面積当たりの炭素量の関係

 この結果は、森林の生産量が群集構造を反映しているという著者らの1つ目の仮説を強く支持していました。すなわち、より温暖な森林では、種数の増加に伴い、面積当たりの炭素量が小さくターンオーバー速度が速い低木種の比率が高くなるために、おなじ炭素量を持つ森林の生産量が高くなっていました(図3)。一方、温暖な環境ほど、樹木個体や樹木種が高い生産量を示すだろうという予想については、わずかにはその効果が認められたものの、森林の生産量の温度影響を説明するものではありませんでした。温暖な環境では光合成による有機物の稼ぎ分だけでなく、植物の呼吸による消費分も大きくなるため、稼ぎと消費の差引きである純一次生産量の温度依存性が明瞭でないと考えられます。

図3 森林を構成する樹木種の森林生産量への相対的な貢献度

 本研究の成果は、これまで表面的な相関解析によって推測されてきた森林の種多様性と生産量の関係に、個々の構成種の視点に基づいた機構的な解明を与えました。環境科学の重要課題である生物多様性と生態系機能の関係の解明に大きく貢献するものです。さらに、森林生態系の持続的管理という社会実装的課題(SDGsの目標15)に関しても、炭素量が大きく、生産量も高い高木種の保全が強調されてきましたが、本研究は、低木種を含む樹木種多様性と樹木群集構造の保全が森林の炭素生産の維持にとっても重要であることを指摘するものです。
 本研究の内容は2013年3月13日付でNature Communications誌に掲載されました。

 

キーワード: 多様性 生産性 緯度勾配

引用文献:
Kohyama TI, Sheil D, Sun IF, Niiyama K, Suzuki E, Hiura T, Nishimura N, Hoshizaki K, Wu SH, Chao WC, Nur Hajar ZS, Rahajoe JS, Kohyama TS. Contribution of tree community structure to forest productivity across a thermal gradient in eastern Asia. Nat Commun. 2023 Mar 13;14(1):1113.