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2023年10月02日

耐陰性樹種の単一種群落における競争様式はギャップ形成に依存(A01班)

研究代表者: 山川 真広 東北大学生命科学研究科/博士2年

 競争様式(サイズに対して成長が相称か非相称か)は、植物群落のサイズ構造を決定する最も重要な要因の1つです。背の高い個体が光を先取りするため、光競争はサイズ非相称であると考えられてきました。実際、草本の単一種群落では、光競争はサイズ非相称であることが多くの研究で示されています。しかし、多種群落では、暗い環境に適応した低木種が、地上部重量あたりの葉面積(LAR)を大きくしたり、受光量あたりの成長量(LUE)を高くしたりすることで、低い受光量を補うため、競争はサイズ相称となります。そこで、暗い環境に適応した樹種が生育している場合、光競争は非相称なのか、相称なのかという疑問が生じます。さらに、ギャップの形成が樹冠下層における光環境を向上させることを考えると、ギャップ動態が競合様式にどのような影響を与えるのかも興味深いです。本研究では、耐陰性の高い樹種であるブナが優占する自然林において、個体サイズ、成長速度、葉と光環境の3次元分布を調査しました。
 その結果、競争様式は森林全体で動的に変化することがわかりました。閉鎖林冠下では、相対成長率(RGR)は高木の方が高く、耐陰性樹種の群落でも、サイズ非相称な成長を示していました。背の低い個体はLARを高くすることで受光量を部分的に補いましたが、背の高い個体に匹敵するRGRは達成できませんでした。逆に、ギャップでは、背の低い個体の受光量が向上したため、背の低い個体のRGRは背の高い個体と同等となり、サイズ相称な成長を示しました。これらの結果は、ギャップ動態による競争様式の変化が、森林におけるサイズ構造の時空間的多様性に影響を与える可能性を示唆しています。


図1 個体の相対成長速度(RGR)と樹高の関係
丸と三角の記号はそれぞれブナとその他の樹種を表し、青とオレンジの記号はそれぞれ閉鎖林冠下とギャップにいる個体を表す。閉鎖林冠下ではRGRと樹高の間に有意な正の相関がみられた(実線)が、ギャップでは相関がみられなかった(点線)。

 

 

図2 ギャップ動態と競争様式の関係
閉鎖林冠下では、サイズ非相称な光競争が起こり、個体サイズの格差が拡大し、小さな個体は淘汰される。しかし、ギャップが形成されると、ギャップ下の個体の受光量が向上し、競争はギャップが埋まるまでサイズ相称になる。

 

キーワード: 極相林・ギャップ・相対成長速度(RGR)・光獲得効率・光利用効率

引用文献:
Yamakawa M, Onoda Y, Kurokawa H, Oguro M, Nakashizuka T, Hikosaka K (2023) Competitive asymmetry in a forest composed of a shade-tolerant species depends on gap formation. Forest Ecology and Management, in press.