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2025年02月14日

環境を汚染する化学合成殺虫剤を分解する形質転換植物(A03班)

研究代表者: 近藤 倫生 東北大学/教授(データ解析)

 

 化学合成殺虫剤のガンマヘキサクロロシクロヘキサン(γ-HCH, γ-BHC, リンデン)は、現在では使用が禁止されていますが、その残留汚染は地球的規模で未だに深刻であり、POPs条約の指定物質にもなっています。環境浄化のためにγ-HCHを分解する微生物 (細菌) の研究が行われてきましたが、汚染環境に分解細菌を接種しても、分解菌の定着や分解活性の維持などの問題があり、期待した成果が得られていません。そこで、細菌由来のγ-HCH分解酵素遺伝子を導入し、γ-HCH分解活性を持つ植物の作製が考えられました。これまでに永田らの研究グループは、細菌由来のγ-HCH分解酵素LinA遺伝子を植物での発現に適したものに改変し、アポプラストへの移行シグナルを付与するなどの工夫を加えることで、γ-HCH分解活性を示す植物根の培養細胞の作製に成功しておりました。

 形質転換植物の実際の応用を見据えた次のステップとして、完全植物体の作製が望まれます。そこで植物根の培養細胞で得られた知見を元に、同研究グループは、linA遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナ植物を作製しました。この形質転換植物は、γ-HCHの毒性に対する耐性能が向上し、培地中のγ-HCHを吸収して分解する活性を示しました。

 今回の研究でγ-HCHで汚染された土壌を浄化するために、微生物由来の分解酵素遺伝子を導入した形質転換植物の利用の可能性を提示することができました。同様の手法は、他の類似のPOPsであるβ-HCHDDTなどの浄化にも応用可能であり、現在、研究を進めております。ただし、汚染土壌の浄化へと展開するには、酵素活性の強化、良好に活性を発現する形質転換体の選抜、根からの汚染物質の吸収効率を上げる工夫などが必要と考えられます。

キーワード:環境汚染物質、形質転換植物、細菌、有機塩素系殺虫剤

引用文献:BMC Biotechnology 24: 42 (2024)

論文掲載日:2024年6月19日