森林の下層土壌は陸域炭素循環に寄与しているか?(A01班)
土壌には莫大な量の炭素が土壌有機物として蓄積し、微生物の分解によって二酸化炭素(CO2)として大気中へ放出されています。土壌有機物の分解は、環境変化による影響を大きく受けるため、土壌からのCO2放出メカニズムの解明は地球温暖化の進行を予測する上で必要不可欠です。近年、森林土壌に蓄積されている炭素のうち、半分以上が下層土壌(30 cm以深)に存在することが明らかになり、下層土壌の炭素貯留能力に対する関心が集まっています。しかし、従来の土壌炭素研究の多くは、炭素含有率が高い表層土壌を対象としているため、下層土壌においてどのような有機物が分解され、CO2がどれくらい放出されているのかなど、その実態については不明な点が多く残されていました。
本研究では、下層土壌からのCO2放出量を定量評価するとともに、CO2放出を規定する要因を明らかにすることを目的としました。有機炭素蓄積特性の異なる火山灰土壌(埼玉、北海道)と非火山灰土壌(愛知、広島)を対象として、表層土壌(0-10、10-25 cm)と下層土壌(30-45、45-60 cm)を採取し、土壌培養実験や放出CO2に対する放射性炭素分析を行いました。その結果、下層土壌からのCO2放出は、全体(0-60cm)の放出量の6-23%を担い、1950年以降に固定された有機炭素の分解に起因していることが明らかになりました。さらに、下層土壌からのCO2放出は土壌微生物が利用しやすい有機炭素の量と微生物バイオマス量に規定されていることがわかりました。これらの結果は、下層土壌は炭素の重要な放出源になり得るため、気候変動下での土壌炭素動態を予測する際に下層土壌を介した炭素循環を考慮する必要があることを示唆しています。
キーワード:炭素循環、下層土壌、土壌有機物、火山灰土壌、同位体分析
論文掲載日:2025年2月20日 (オンライン版発行日)