研究論文が公開されました(C02班)
"植物内の非構造性炭水化物を推定できる動的植生モデルSEIB-DGVM-NSCの開発" 二宮 秀輝 北海道大学/博士課程2年(生態系モデリング)
植物内の非構造性炭水化物(Non-structural carbohydrate: NSC)を個体ごとに明示的にグローバルスケールで定量化できる新しい生態系モデルSEIB-DGVM-NSCが新たに開発され、モデル概要についての論文が公表されました。
植物の内部に蓄えられるNSCは、葉、茎、根といった器官ごとに異なる分布を有し、周囲の気温や土壌水分などの環境要因によってその含有量が変動します。さらに、気候帯や樹種によっても異なる季節変動が観察されています。このため、新たに開発されたSEIB-DGVM-NSCは、植物の成長過程において、葉、茎、根の各器官ごとにNSCが蓄積されるようなモジュールを構築し、加えて寒帯、温帯、熱帯といった異なる気候帯における季節変動も適切に調整されたパラメータによって表現されています。
本研究では、モデルが予測するNSCの動態を異なる気候帯に位置する4つの地点(カナダ、オーストリア、スイス、パナマ)における観測データと比較し、その正確性を検証しました。その後、広範なメタ解析データを活用して、グローバルスケールでの検証も行いました。この新たなモデルは、個々のサイトにおいて葉、茎、根のNSC含有量の季節的変動を高い精度で再現するとともに、グローバルスケールにおいて植物機能性タイプごとのNSC量を正確に予測することが可能です。この研究により、虫害や炭素飢餓など、通常観測が難しいNSCに関連する樹木の枯死が陸域生態系の炭素循環に及ぼす影響を、グローバルな視点から推定する可能性が示唆されました。今後は、このモデルを活用して、気候変動の影響のもとでの2100年までのNSC量の変動や、それに伴う森林動態の変化を、気候変動の強度や気候帯、植生機能タイプごとに詳細に分析していく予定です。
(2023年7月25日 論文掲載)
図1 ポイントスケールにおけるモデル化されたNSC(mg/g)と観測されたNSC(mg/g)のプロット
図2 1976年から2005年の間に平均された総NSC濃度の総乾燥木質バイオマスに対する割合の世界地図(%)(a)SEIB-DGVM-NSC、および(b)元のSEIB-DGVM
キーワード: 非構造性炭水化物、気候変動、生態系モデル、炭素循環、植生動態
引用文献:
Ninomiya, H., Kato, T., Végh, L., Wu, L., 2023. Modeling of non-structural carbohydrate dynamics by the spatially explicit individual-based dynamic global vegetation model SEIB-DGVM (SEIB-DGVM-NSC version 1.0), Geosci. Model. Dev. , 16(14), 4155-4170. https://doi.org/10.5194/gmd-16-4155-2023