【研究紹介】樹木における匂い受容を介した環境ストレスと病虫害への応答トリプルトークの解明
- A分野
- A04班
石原 正恵 京都大学/准教授(森林生態)
地球温暖化により、樹木は高温、乾燥化、病虫害などの様々なストレスに直面している。従来、高温や乾燥ストレスへの耐性や病虫害への抵抗性の獲得は、独立な現象として研究されてきた。耐性・抵抗性制御機構の中枢を担っている植物ホルモンであるサリチル酸、アブシジン酸、ジャスモン酸の3つの植物ホルモンは、独立に作用するのではなく、拮抗作用や相乗作用、つまりトリプルトークが存在しており、その結果植物の実際のストレス応答が制御されている可能性が示唆されてきている。また、食害や傷害を受けた葉から揮発性有機化合物(Volatile organic compounds, VOCs)が放出され、被害を受けていない健全な他個体がそのVOCsを受容すると、防衛力が高まり、被害率が低くなるという「VOCsを介した植物間コミュニケーション」が近年注目されている。つまりVOCsを介してストレス応答が個体を超えて森林内に拡散していく可能性がある。
本研究は、病害虫による被害により葉から放出される“VOCs“に着目し「VOCs受容による、植物のストレス応答トリプルトークの解明」を目的とする。まずは、乾燥化により、葉から放出されるVOCsの組成の違いを明らかにする。さらにVOCs乾燥化とVOCs受容実験により、3つの植物ホルモンと、それらを駆動するスイッチである遺伝子の発現という2つのレベルでの樹木の応答を明らかにし、地球温暖化に伴う実際の樹木の応答予測の高精度化に不可欠な知見を提供する。
キーワード: 植物間コミュニケーション,ブナ,揮発性有機化合物,トリプルトーク,ストレス応答
引用文献:
Tomika Hagiwara, Masae Iwamoto Ishihara, Junji Takabayashi, Tsutom Hiura, Kaori Shiojiri. (2021). Effective distance of volatile cues for plant–plant communication in beech. Ecology and Evolution, 11, 12445-12452