葉の形質と食害率との関係は樹木の成長にともない変化する(A01班)
研究代表者: 黒川紘子・小黒芳生 森林総合研究所/主任研究員(植物機能生態学)
植物の成長にともなう被食防衛戦略の解明は、植物の生活史戦略や群集の形成・動態の理解に重要です。これまで多くの研究が、稚樹や成木といった成長段階の間で被食防衛形質や食害率の大小を比較してきましたが、被食防衛に関わる植物特性と食害率との関係が植物の成長にともなってどう変化するかはほとんどわかっていませんでした。そこで、日本の冷温帯落葉樹林(小川群落保護林・北茨城市)の試験地(6ha)に共存するほぼ全ての木本種(レア種から優占種までを含む56種)を対象に、昆虫による葉の食害率と複数の植物特性(単位面積あたりの幹本数、植物個体サイズ、葉の形質)との関係を稚樹と成木で比較しました。
調査したいくつかの葉の形質と食害率との関係は稚樹と成木で異なりました。例えば、成木では葉が硬くなるほど食害率が下がっていたのに対し、稚樹では葉の硬さは食害率にあまり影響していませんでした。一方、稚樹では被食防衛機能を持つとされるフェノール性物質が増えると食害率が下がっていたのに対し、成木ではむしろ上がっていました。つまり、植物が成長するにつれ、化学成分を使った防衛から物理特性による防衛へと戦略が変化する可能性が示されました。このことは、野外における植物の生活史戦略を理解する上で重要な成果です(2022年11月)。
昆虫による葉の食害率を稚樹と成木で測定し(上図)、各植物特性との関係を明らかにした(下図)。
下図で青色は稚樹、赤色は成木を示す。
キーワード: 形質、植物―植食者相互作用、生育段階、成木、稚樹、被食
引用文献:
Kurokawa H, Oguro M, Takayanagi S, Aiba M, Shibata R, Mimura M, Yoshimaru H, Nakashizuka T (2022) Plant characteristics drive ontogenetic changes in herbivory damage in a temperate forest. Journal of Ecology 110(11), 2772-2784. DOI: 10.1111/1365-2745.13990.