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2023年10月12日

土壌呼吸速度と地温との関係が季節によって異なる理由(C01班)

研究代表者: 安立美奈子 東邦大学/ 准教授(生態系生態学)

 土壌呼吸とは土から放出される二酸化炭素のことで、土の中にある植物の根の呼吸とリターを分解している微生物の呼吸から成っています。土壌呼吸量は、生態系においては一番大きな炭素の放出であるため、土壌呼吸量を左右する環境要因についての研究が世界中の様々な生態系において行われています。一般的には、土壌呼吸速度の時空間変動は地温と土壌水分によって左右され、温帯では地温との関係から年間の土壌呼吸量を推定することがほとんどです。

 本研究では、長野県にある筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所のアカマツ林において、土壌呼吸速度と地温、土壌水分、アカマツの樹液琉を連続測定しました。その結果、図1にあるように春から夏にかけての地温の上昇と、秋から冬にかけての地温の低下と土壌呼吸速度の関係は別の関係式で表され、同じ地温の時の土壌呼吸速度を比較すると春よりも秋の土壌呼吸速度の方が高いことが明らかになりました。この現象はヒステリシスと呼ばれています。この原因について、アカマツの樹液流による植物の活性から考察したところ、植物の活性は秋より春の方が高いことが示唆されました。従って、秋の土壌呼吸速度が高い理由は、土壌微生物の活性が秋に高まることではないかと考えられました。このような地温と土壌呼吸速度の関係が1つの回帰式で表せないことは、生態系の炭素循環を推定する際には大きな誤差となるため、土壌呼吸速度の連続測定の結果を細かく解析することの重要性が示されました。

論文掲載(2022年11月)

図1.土壌呼吸速度と深さ5cmの地温の関係
黒い点が春(4〜6月上旬)、薄い灰色が夏(6月下旬〜9月上旬)、灰色が秋から冬(10月〜12月上旬)のデータを示す。

 

キーワード: 冷温帯、アカマツ林、ヒステリシス、樹液流

引用文献:
Adachi M., Hobara Y., Saitoh M.T., Hirota, M. (2022) Temporal variation and hysteresis of soil respiration and sap flow of Pinus densiflora in a cool temperate forest, Japan. Forests, 13(11), 1833. https://doi.org/10.3390/f13111833