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2024年10月08日

高山キャンペーン観測&30周年記念ワークショップ開催報告

羽田 泰彬・高村 直也・仮屋園 純平・中田 拓朗 (東京大学)

 

 デジタルバイオスフェアのプロジェクトの一環として、2024年7月29日(月)~7月31日(水)に岐阜大学高山試験地にてキャンペーン観測が実施されました。また、連続して8月1日(木)~8月2日(金)に国立乗鞍青少年交流の家にて高山サイト30周年記念ワークショップ・JaLTER Open Science Meetingが開催されました。
 キャンペーン観測は、日頃の調査研究をメンバー同士が直接体験するために行われ、2022年の東京湾、2023年の苫小牧での観測に引き続き3度目の開催となりました。今回の観測には多くの大学や研究機関から合計74名の学生・研究者が集結しました。日中の観測活動だけでなく、朝のラジオ体操や夜のキャンプファイヤー・懇親会を通じても、メンバー同士で活発に交流を深めることができ、今後の共同研究の加速が期待される3日間となりました。
 高山サイト30周年記念ワークショップは、1993年にCO2フラックス等の観測が開始されて以来30年以上にわたり森林の炭素循環や林冠フェノロジーの⻑期モニタリングに関する知見を提供し続けてきた高山サイトを記念し、デジタルバイオスフェアおよびJaLTERによって共同開催されました。
 これら今夏2大イベントの様子を報告します。

キャンペーン観測

 地上では土壌サンプリングや森林種組成調査、櫓やタワーでは大気と植物との間のガス交換測定、そして上空からはドローンを用いた分光放射計測など、高山サイトの持つ様々なプラットフォームを利用した観測が行われました。本報告では、その中から高山落葉広葉樹林サイトで行われた光合成蒸散測定とLiDAR計測を紹介します。

光合成蒸散測定

 落葉広葉樹林の櫓では、小野田雄介教授(京都大)にアドバイスを受けながら光合成蒸散測定を行いました。今回の観測では主に、光合成蒸散測定装置であるLI-6800を用いて気孔コンダクタンスの環境応答特性や光合成能力の鉛直分布に着目した観測を行いました。LI-6800のチャンバー内部を外気と同じ環境に合わせ、一日を通して観測を行うことで日変化に対応した気孔の環境応答を計測することが出来ます。観測データをBall-BerryモデルやMedlynモデルにフィッティングをすることで気孔の環境応答パラメータを取得することが出来ました。また、光を十分に当て最大光合成速度の測定も行いました。最終的に、同一樹冠内におけるこれらのパラメータ値の鉛直方向の違いについて調査しました。
 このような観測値は、森林の生理生態学的特性の時空間分布を陸域生態系モデルに反映させる上でGround Truthになることに加えて、モデルに直接入力する値としても利用することができます。そして、葉の窒素量やルビスコ量との相関、日の当たる葉と当たらない葉の構造の違い、森林内部の光環境や葉量分布と組み合わせることで、さらなる植物生理生態学の進展やモデル構造の改良に繋がると考えています。

LiDAR計測

 森林の樹冠構造は、光合成や蒸発散に重要な光環境に大きく影響します。そこで、レーザースキャナ(LiDAR)を使用して高山サイトの3次元樹冠構造を計測しました。小野田雄介教授(京都大)、加藤知道教授(北海道大)の協力を得て、地上LiDARとドローン搭載LiDARを併用し、地上と上空の両方から詳細な計測を行いました。
 今後は、取得した点群データ(3次元座標群)から、葉量とその空間分布を推定する予定です。高山サイトでは、リタートラップを用いて長期的に葉量の時空間分布を計測しており、そのデータと比較してLiDARによる推定手法の精度を向上させます。
 また、ドローン観測では、LiDARだけでなくマルチスペクトルカメラを使って樹冠の分光反射も測定しています。今後は、小林秀樹主任研究員(JAMSTEC)の協力のもと、推定した葉群構造に放射伝達モデルを適用し、樹冠内の光環境をシミュレーションします。ドローンで得た分光反射データを使ってシミュレーションの精度を検証し、さらに林内の光環境を詳細に解析する予定です。