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2022年07月05日

デジバイセミナ【2022/7/12】:
増田 良帆植物プランクトン馴化の海洋生態系モデルへの導入

【日時】 2022年7月12日(火)16:00-, Zoom

【演者】 増田 良帆(海洋研究開発機構・JAMSTEC)

【題名】 植物プランクトン馴化の海洋生態系モデルへの導入

【要旨】 
 将来の気候変動に伴う生態系の応答を数値モデルで予測する際には生物の馴化・適応過程の導入が不可欠である。海洋の植物プランクトンの場合、光の不足する環境では、馴化によって細胞内クロロフィル含有量が光の豊富な環境の数十倍に増加することが室内実験で確かめられている。本発表では、近年提唱された植物プランクトン馴化理論を3Dの海洋生態系モデルに導入して得られた成果について紹介する。
 1. 馴化の導入による海洋のクロロフィル濃度鉛直分布の再現性向上
 植物プランクトンのクロロフィル濃度は成長速度を通じて一次生産に影響するため、モデルのクロロフィル濃度再現性の向上は一次生産の再現性向上に直結する。海洋のクロロフィル濃度は海表面でなく、亜表層で最大値を取るが、この深度は海域によって全く異なる。本研究では、最新の馴化理論の導入によって、世界で初めてクロロフィル濃度最大深度の全球分布を再現することに成功した。再現の鍵となったのは、海域によって馴化戦略が光獲得優先と栄養塩獲得優先で異なるという点である。海域間の馴化戦略の違いに起因する細胞内クロロフィル含有量の違いによって、クロロフィル濃度最大深度の海域による違いが形成される。
 2. 環境変化の顕著な海域では、動的な馴化が一次生産を増加させる証明
極域のような季節変化が大きい海域では動的な馴化が一次生産に及ぼす影響が他の海域より大きいと予想される。馴化の季節変化を調べた結果、極域では馴化戦略が冬季・春季の光獲得優先から夏季の栄養塩獲得優先へと切り替わっていることが分かった。年間通じて馴化戦略が変わらないように設定したケーススタディを行い、馴化戦略の季節変動がある場合と比べて、極域では一次生産が顕著に減少することを確かめた。これによって、極域のような季節変化の顕著な海域では動的な馴化が一次生産を増加させることが示された。