【研究紹介】湖沼における淡水カーボン増強に向けたCO<sub>2</sub>調整機能の解明
- A分野
- A04班
中山 恵介 神戸大学/教授(水圏環境工学)
カーボンニュートラルへ向けて世界と足並みを揃えるために、日本でもすでに様々な取り組みが始まっています。淡水カーボン(freshwater carbon)とは、淡水域におけるブルーカーボンのことです。現在、日本国内におけるCO2の排出量は工場・自動車・家庭が7割を締めており、約10.5億トンCO2です。2050年に80%を削減できたとしても、約2億トン CO2を貯留しなくてはカーボンニュートラルを達成できません。森林、農地土壌、ブルーカーボンを含めた現時点での全体の貯留量は約6000万トン CO2であり、森林や農地土壌による貯留量を増強するのみならず、 ブルーカーボンや他の貯留技術に頼らなくては2050年カーボンニュートラルを達成できません。世界的に見て、ブルーカーボンの対象となっている沿岸域は180万km2であるのに対して、淡水湖沼・貯水池・ため池の面積は2倍以上の500万km2におよびます。よって、freshwater carbonを増強することにより、2050年カーボンニュートラルに向けた活動を加速することが可能であると考えています。
① 台湾での研究活動
Freshwater carbonの研究は、台湾から始まりました。台湾では自然の湖沼を対象とし、栄養レベルがCO2の貯留にどのような影響を及ぼすかを研究しました。その結果、中栄養の湖では植物プランクトンによる生物活動により、CO2が大気から吸収・貯留されていることがわかりました。
台湾のYuang-Yang Lake
② オーストラリアへ
オーストラリアでは、研究の更なる進展を目指して、街なかに存在する湖を対象としました。水草によるCO2の貯留効果を研究することで、台湾での研究に引き続き、自然だけでなく都市における効果の有効性を示すことができました。
③ 神戸で日本初の試み、そして阿寒湖へ
神戸で行われた「淡水域」での取り組みは、日本では初めてのことでした。貯水池を対象として研究を行い、台湾に引き続き植物プランクトンによるCO2の貯留効果を示すことができました。それだけでなく、実際に植栽することでfreshwater carbonの増強の可能性を探っています。また、水草の存在により成層場が変化し、表層混合層厚が影響を受け、CO2の吸収量が大きく変動します。そこで現在、阿寒湖における水温チェーンなどを利用した観測を通して、その評価を行っています。
(2023年2月2日 論文掲載)
キーワード: 淡水湖,植物プランクトン,水草,成層,表層混合層
引用文献:
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Terrestrial loads of colored dissolved organic matter drive inter-annual carbon flux in contrasting lakes: Influence of decreased monsoon and typhoon rainfall
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