【研究紹介】観測ビッグデータ駆動型の広域陸域水・物質循環の推定
- B分野
- B03班
市井 和仁 千葉大学/教授(生物地球科学)
陸域生態系における水・物質循環については、これまで地上観測データ、衛星観測データの不足や陸面の不均質性のために、推定の不確実性が高いとされてきた。近年では、地上観測ネットワークデータ・衛星観測データの整備が進みつつあることや、計算機技術の発展に伴い、観測データ(観測ビッグデータ)に基づく推定が可能になってきた。本研究では、地上観測ネットワークデータ・衛星観測データ・機械学習・簡易生態系モデル(診断型モデル)を駆使して、観測ビッグデータに駆動された広域の陸域水・物質循環を機械学習に基づく方法と簡易生態系モデルに基づく方法の2種類の手法で推定することを第一の目的としている。さらに、得られた推定結果を用いて過去約20年に渡る変動を評価し、極端な変動が見られる地域を抽出し、相互の一貫性を含め、信頼性の高い変動シグナルを抽出し、メカニズムを解明することを第二の目的としている。
本研究で用いた機械学習によるデータ駆動型推定の概要(図1)とその結果の一例(図2)を示す。本手法では、地上観測ネットワークデータ(AsiaFlux, FLUXNETなど)、衛星観測データセットを用い、機械学習法としてサポートベクタ回帰により、広域の陸域炭素フラックスを推定している(図1)。陸域生態系炭素フラックスの長期変動を解析するにあたり、入力に用いる衛星データが非常に重要であり、このバージョンの違いによって、長期トレンドに大きな違いがでることなどが明らかになってきた(図2)。今後は、衛星データの違いがどの程度陸域炭素フラックスの変動に影響を与えるか、などを、より多くの種類のデータを用いたり、長期地上観測データや数値モデルなどの他の手法との相互比較を通して、より信頼性のあるデータを構築したい。
図2.アジア域における機械学習(サポートベクタ回帰)による総一次生産量の推定結果
異なる線は衛星データ(Terra, Aqua MODIS)の異なるバージョンを示し、
総一次生産量の増減の大きさは、バージョンに大きく依存することが分かる。
本研究で構築する広域の陸域水・物質循環データセットは、「デジタル・バイオスフェア」における高空間解像度・高時間解像度を持つ観測ベースのデータセットとしての基盤的な貢献を果たすことのできるデータセットになりうる。さらには、このデータを解析することによって、近年(主には過去20年程度)の陸域生態系の光合成量などの重要な物理量の変動を詳細にモニタリングし、その変動要因を解明することにつながる。さらには、この解析を通して、現在の地球環境変動に伴う、陸域生態系の変動が大きい地域を把握することにより、グローバルな地球環境変動における陸域生態系の役割を明らかにすることが期待できる(図3)。
図3. 本研究の全体概要
地上観測・衛星観測データを基盤としたデータ駆動型の推定を2種類の方法
(機械学習と簡易生態系モデル)で行い、グローバル・アジアのデータセットを構築する。
さらに、これらのデータに基づいて過去~現在の陸域生態系の変動を抽出する。
キーワード: 陸域炭素循環、地上観測、衛星観測、ビッグデータ、広域推定