【研究紹介】温帯性樹木の幹内部二酸化炭素フラックスの種多様性
- A分野
- A04班
飯尾 淳弘 静岡大学/准教授(森林生理生態)
森林生態系の炭素循環において樹木の非同化器官(枝、幹、根)の呼吸は大きな割合を占めるが、呼吸で発生したCO2の一部が樹液に溶けて樹体内を移動する実態が近年報告されている。そうした樹体内部のCO2フラックスが大きい場合には、土壌呼吸として分類されるべき根の呼吸由来のCO2が幹から放出されるなど、樹体内でCO2の持ち去りや持ち込みが起こる。多くの研究では器官表面のCO2放出速度が呼吸速度に等しいと仮定しているため、もしそうした内部CO2輸送がどの樹木にも起こる現象であれば、これまでの知見を、調査方法も含めて見直す必要がある。このように内部CO2フラックスの種多様性とその原因を明らかにすることは、樹木の炭素収支を正しく理解する上で重要である。しかし、内部CO2フラックスの定量的研究は少なく、その種による違いや違いをもたらす原因は明らかでない。
そこで本課題は温帯林の幹形態の大きく異なる種について、マスバランス法を用いて幹の内部CO2フラックスを定量し、その種多様性を調査する。そして、樹木形質や生育環境との関係を調べて、内部CO2フラックスを高める環境および生物的要因の解明を目指す。
図 幹内のCO2とO2 の移動経路: ①~③;外から各組織へ,拡散による放射方向の移動,④;樹液による下からの持ち込み,⑤;光合成による供給,⑥;拡散による軸方向の移動。CO2 の移動経路:⑦~⑨;各組織から外へ,拡散による放射方向の移動,⑩~⑫;各組織から辺材内へ,拡散による放射方向の移動(蓄積),⑬;樹液による上への持ち去り,⑭;樹液による下からの持ち込み,⑮;樹液からの放出,⑯;光合成による固定,⑰;拡散による軸方向の移動。EA;器官表面からのCO2 放出速度(飯尾2021より引用)。
写真 コナラにおける幹内部CO2濃度測定の様子。ここでは小型CO2濃度計を辺材内に深さ別に挿入し、内部CO2濃度の放射方向の変化と樹液流束密度との関係を調べている。
キーワード: 幹呼吸、樹液流、ガス拡散抵抗、幹内CO2濃度、種多様性
引用文献:
- 飯尾淳弘 (2021) 樹木の幹枝の呼吸―器官表面でのCO2 フラックス測定から内部の呼吸プロセスの理解へ― 日林誌103:53-64