モンゴル草原の乾燥ストレスを、クロロフィル蛍光を使った人工衛星観測によって解明(A01班)
研究代表者: 彦坂 幸毅 東北大学/教授
クロロフィル蛍光は、光合成色素クロロフィルが吸収した光のうち、光合成に使われなかったエネルギーの一部が光として放出されるものです。光合成系の状態によってクロロフィル蛍光の強度が変わるため、植物生理学では、植物のストレス状況を推定するために古くから利用されてきました。日本の人工衛星「いぶき」(Greenhouse gas Observation SATellite, GOSAT)は温室効果ガス濃度をモニタリングする目的で2009年に打ち上げられた衛星ですが、この衛星が搭載する高精度分光光度計のデータからクロロフィル蛍光を検出できることが明らかとなり、地球レベル・地域レベルでの植物のストレス状況のモニタリングに利用できると期待されます。
本研究では、モンゴル草原を対象に、10年間のクロロフィル蛍光強度を解析し、モンゴル草原の総一次生産(GPP・植物による光合成生産量)が乾燥ストレスにどのように影響されるのかを解析しました。その結果、モンゴル草原では2016年前後に起こった強い乾燥によってクロロフィル蛍光とGPPが低下したこと、また、土壌中の水分量(土壌体積当たり水分体積)が15%以下になるとGPPの低下が起こることを明らかにしました。乾燥ストレスがGPPの低下を引き起こすことはすでにわかっていることですが、GPPの低下が起こる閾値を、現地に赴くことなしに示すことができたことが本研究の意義となります。
(論文掲載 2023年4月18日)
10年間のクロロフィル蛍光と土壌水分含量の関係
水分含量が0.15(15%)よりも低下するとクロロフィル蛍光収率が低下することが明らかとなった。
GPPはクロロフィル蛍光と正の相関があるため、GPPも同様に低下していると考えられる。
キーワード: リモートセンシング・太陽光誘起クロロフィル蛍光(SIF)・乾燥ストレス・総一次生産(GPP)
引用文献:
Kiyono T, Noda HM, Kumagai T, Oshio H, Yoshida Y, Matsunaga T, Hikosaka K (2023) Regional-scale wilting point estimation using satellite SIF, radiative-transfer inversion, and soil-vegetation-atmosphere transfer simulation: A grassland study. Journal of Geophysical Research: Biogeosciences, 128: e2022JG007074. https://doi.org/10.1029/2022JG007074