生物多様性観測ネットワークと全球生物多様性観測システム(B01班)
研究代表者: 村岡 裕由 岐阜大学/教授(植物生理生態学)
気候変動,生物多様性の損失,環境汚染は国際社会が連携して取り組みを推進すべき世界の3大環境問題として認識されています。国連気候変動枠組条約や国連生物多様性条約などでは,それぞれ,パリ協定(2015年)に基づく温室効果ガス排出削減,昆明−モントリオール生物多様性枠組(2022年)に基づく生態系・生物多様性保全の具体的推進など多くの目標が定められています。これらの課題への取り組み,および目標への進捗評価においては,生態系によるCO2吸収機能の診断や予測,遺伝子・種・生態系レベルにおける生物多様性と生態系サービスの観測や予測によるデータから創出される科学的知見が重要な指標となるため,各国・地域・地球規模での観測の推進とデータの集約,総合的な知見の創出が関連する科学分野にとって喫緊の課題となっています。
国連生物多様性条約COP15(2022年)で採択された昆明−モントリオール生物多様性枠組では,健全な地球を維持し人類に永続的な利益をもたらす自然との共生をビジョンとして掲げています。生物多様性枠組が定める目標の進捗・達成状況をモニタリングし,生物多様性の変化に関する代表的かつ包括的な理解を提供するため、地球観測に関する政府間会合の生物多様性観測ネットワーク(GEO BON)を中心としたグループは,「全球生物多様性観測システム(GBiOS; Global Biodiversity Observing System)」の構築を提案しました(Gonzalez et al. 2023)。GEO BONは世界の生物多様性観測研究者や機関のネットワークであるのに対して,GBiOS は生物多様性枠組の目標達成を目的とした各国・各地域の生物多様性関連観測システムを結合するネットワークです。このような観測システムには,環境DNA分析,生態系変動や生態系機能に関するプロット調査やタワー観測,近接・衛星リモートセンシングが含まれます。例えばタワー観測を中心とした研究サイトはそのような横断的観測と融合的知見を創出する拠点(スーパーサイト,図参照)となるでしょう。GBiOSでの融合的観測知見の創出や観測の拡大は,スケールを跨いだ生物多様性の変化の理解,および,観測ギャップにおける観測能力と技術の実装にも繋がります。GBiOSが提供する生物多様性の変化に関する知見により,生物多様性枠組の達成や政策の効果的な実施,生物多様性の損失を逆転させるネイチャーポジティブへの貢献が期待されています。
「デジタルバイオスフェア」での各種さまざまな研究は,いずれも国・地域・地球規模での生態系・生物多様性関連課題の取組を科学的に推進します。そのためにも,学術論文等による研究成果の輩出に加えて,データの共有や国際共同研究を通じたオープンサイエンスへの貢献,次世代研究者による国内・国際的なネットワークへの参加を通じた環境関連課題への理解の促進と関連研究分野の価値の拡大への寄与がさらに期待されます。
図 長期・分野横断的観測インフラストラクチャーとしての「スーパーサイト」のイメージ。村岡原図。
キーワード:
生態系・生物多様性観測,観測システム,国際環境課題への取組,昆明−モントリオール生物多様性枠組
引用文献:
Gonzalez et al. (2023) A Global Biodiversity Observing System to unite monitoring and guide action. Nature Ecology & Evolution, 10.1038/s41559-023-02171-0