研究レポート

【研究紹介】
森林と草原に何種の微生物、何円の価値が含まれるか?植物共生微生物に着目して

  • A分野
  • A04班
2022年11月09日
 田中 健太  筑波大学/准教授

 地球上の膨大な生物種が、私達に認識すらされないまま急速に失われています。その中で、基礎的な自然史分野においても、応用的な遺伝資源の分野においてもフロンティアと言えるのが、特定のホスト生物と共生している微生物です。この研究では植物共生微生物に着目することで、特定の地域生態系内に何種の微生物が生息し、何円の遺伝資源価値があるのか、世界で初めて地域レベルで可視化することに挑むことにしました。

 長野県・菅平高原の森林・草原で植物200種の葉・枯葉・根からDNAメタバーコーディングで真菌・細菌を網羅的に検出するとともに、5季節・40地点で植物群集・微生物群集・環境要因・植物形質などのデータを取得する予定です。ホスト植物種・植物器官・空間距離・環境要因や景観指標が微生物群集の異質性に与える効果を定量してモデル化することで、調査地内の微生物多様性を地域全体に外挿することができます。また、検出された共生微生物のうち、病原菌等に対する抗微生物活性を持つ種の割合を実測し、創薬成功確率などの既知パラメーターを組み込むことで、地域の微生物多様性が潜在的に持つ遺伝資源価値(円)を算定します。

 これらの研究成果の応用として、微生物多様性や遺伝資源価値の保全目標を設定した場合に、優先して保全するべき生息地はどこか、地域の何%を保全するべきか等に答えることができます。また、単純な仮定の下で、植生等の基礎情報が把握されている他地域にも本研究で開発するモデルを適用することができるでしょう。