研究レポート

【研究紹介】
温帯性樹木の幹内部二酸化炭素フラックス種多様性

  • A分野
  • A04班
2023年10月02日
飯尾 淳弘   静岡大学/准教授(森林生理生態学)

 森林の炭素循環において、樹木の幹枝の呼吸は大きな割合を占める一要素ですが、太い幹では内部のガス拡散抵抗が大きいために、呼吸で発生したCO2は幹に蓄積し、その一部が樹液に溶けて樹体内を移動することが知られています。そうした樹体内部のCO2フラックスが大きいと、幹の呼吸能力やその環境応答特性を正しく評価できません。また、幹からのCO2の持ち去りだけでなく、地下から幹への持ち込みが起こると、本来、土壌呼吸として分類されるべきCO2が幹から放出されることになり、炭素循環プロセスを大きく見直す必要があります。ところが、このような内部CO2フラックスに関する研究は世界的にも少なく、特に、どのような樹種で内部CO2フラックスが大きくなるのかについては、ほとんど知られていません。そこで、幹形態の大きく異なる温帯性樹種について、マスバランス法を用いて幹の内部CO2フラックスを定量し、その種多様性の調査に取り組んでいます。最終的には、材密度などの樹木形質や生育環境との関係を調べ、内部CO2フラックスを高める環境および生物的要因を明らかにすることを目指しています。

 これまでに常緑針葉樹1種、常緑広葉樹4種、落葉広葉樹6種について調査を行いました。呼吸で発生したCO2のうち、樹液流に輸送される成分(FT)は針葉樹で小さく広葉樹で大きい傾向が確認されました。常緑針葉樹についてはスギしか調査していませんが、この傾向は既存の研究報告と一致します。広葉樹と比べて生理活性の低い針葉樹では内部CO2フラックスが小さいのかもしれません。広葉樹では呼吸CO2の最大50%が上部へ輸送されていることがわかりました。さらに、FTの大きな種では、FTの考慮によって呼吸量だけでなく、その温度応答特性の再現精度も高まることがわかりました。一方で、広葉樹では種だけでなく個体によってもFTの割合が大きく異なり、同じ場所でも幹の南側と北側で異なるケースも見られました。似たサイズの幹を使用していますが、幹の中の生細胞の分布と呼吸活性、ガスの拡散経路、樹液流量の空間分布は想像以上に複雑なのかもしれません。
 現在は、樹種数をさらに増やすと同時に、CO2よりも水に溶けにくいO2のフラックス調査や、樹冠の被陰処理による樹液流の影響の持続時間の調査、幹コアサンプルの呼吸ポテンシャルの測定などを行い、幹呼吸の評価における内部フラックスの影響をより詳細に調べる予定です。

 

                                     

晴天日のシラカシとスギにおける幹CO2フラックスの日変化
シラカシでは呼吸能力が高いために、内部フラックス(FTと貯留フラックス;ΔS)がスギよりも大きい。シラカシのEAは、樹液流によるCO2の持ち去りのため、温度の高い日中にむしろ低下している。

 

キーワード: 幹呼吸 CO2フラックス 樹液流 樹種多様性