【研究紹介】人工衛星が捉えた亜熱帯性常緑照葉樹林の季節変化
- B分野
- B03班
秋津 朋子<br>宇宙航空研究開発機構/主任研究開発員(衛星リモートセンシング、分光生態学)
沖縄県北部のやんばるの森には、スダジイ(イタジイ)やイジュを優占種とする亜熱帯性常緑照葉樹林が広がっています。スダジイは、暖温帯に広く分布し、しばしば極相林を形成する樹種ですから、初めて見た時には、亜熱帯の沖縄にスダジイの森が広がっていることに非常に驚きました。この森に魅せられて、やんばるの森で生態系観測を行っている琉球大学与那フィールドに、光観測機器やカメラを設置し、亜熱帯照葉樹林の季節変化を捉えています。
熱帯の森林は、世界の森林の45パーセントを占めるため、地球全体にとって重要な炭素吸収源であり、重要な炭素(バイオマス)の貯蔵庫です。ですから、気候変動によって、この地域の二酸化炭素吸収量がどのように変化するのかをモニタリングすることは、非常に重要です。しかし、これまで、人工衛星の光学センサでは、この地域の植生の季節変化を捉えることは、雲の影響が大きく困難でした。そこで、10分毎に観測している気象衛星「ひまわり」から雲なしデータを抽出することで、常緑広葉樹林の小さな季節変化を捉えることに成功しました。植生指数は、新葉が開く早春に、毎年、わずかに小さくなるのです。また、気象衛星と比べると観測頻度が少ない人工衛星「しきさい」(およそ2日に1回の観測)でも、同様の季節変化を捉えることに成功しました。
(本研究成果は、2023年8月にハワイ大学で行われた「The 1st Expert Workshop on Advancing International Constellation of Geostationary Satellites for Terrestrial Monitoring」において発表しました。)
図の説明:カメラが捉えた与那フィールドにおける亜熱帯性常緑照葉樹林の季節変化。3月から4月には、樹冠が黄緑色の新葉に覆われています。
図の説明:人工衛星「しきさい」のSGLIセンサと静止気象衛星「ひまわり」のAHIセンサが捉えた、与那フィールド(亜熱帯性常緑照葉樹林)における植生指数NDVIの季節変化。
キーワード: 人工衛星「しきさい」、静止気象衛星「ひまわり」、やんばるの森、与那フィールド、Phenological Eyes Network