研究レポート

【研究紹介】
ゲノム配列に基づいた被子植物種ごとの炭素固定能力推定モデル開発

  • A分野
  • A04班
2023年10月16日
白井 一正  九州工業大学/研究員(ゲノム解析)

 植物は、大気中の二酸化炭素を光合成により吸収し、有機物を作り出す炭素固定能力を持ち、地球環境を改善することができる生命体です。今後、地球温暖化を緩和し、地球環境を安定化するためには、植物の炭素固定能力を地球規模で向上させることが重要です。しかし、約27万種存在する植物の種ごとに著しく異なる炭素固定能力を把握することは、これまで困難でした。そこで、本研究の目標は、陸上植物の90%を占める被子植物において、種ごとに異なる炭素固定能力を、遺伝情報であるゲノムから予測する方法を開発することです。本研究では、炭素固定能力の評価基準として、遺伝要因によって強く決定される2種類の形質値、乾燥重量あたりの光合成速度(Amass)と葉面積あたり葉重(LMA)に着目します。これらの形質値を、植物種ごとのゲノム中の遺伝子構成の違いから予測するモデルを構築します。本研究手法が確立すれば、遺伝要因で決定される様々な形質値をゲノムから予測可能になると期待されます。

 これまでに、多数の植物種の炭素固定能力を文献情報から収集しました。さらに、公開されているゲノム情報を元に、被子植物を広く網羅する種において、遺伝子構成の違いを示す、遺伝子ファミリーの構築を完了しました。さらに、これらのデータを機械学習し、AmassとLMAをそれぞれ予測するモデルの構築を行いました。この中で、被子植物種間で強く保存される遺伝子ファミリーに着目することで、高い精度で炭素固定能力を予測できるモデルの構築に成功しました。

 現在は、予測モデルの更なる改良を目指すと同時に、予測モデルを応用した全ゲノム情報が解明されていない種でも炭素固定能力を予測できる手法の開発を目指しています。さらに、予測モデルにおいて強い相関を示す遺伝子に着目することで、植物の炭素固定能力を制御できるような遺伝子を、モデル生物であるシロイヌナズナによる実験によって探索していく予定です。

 

キーワード: 遺伝子ファミリー、炭素固定能力、被子植物